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12.09.21 将来の人類の健康上の課題に挑む

 20年あるいは50年先の人々の健康について考える時、何が変わり、それはどちらに向かうのであろうか。その方向を変えることはできるのだろうか。

 20年以上先の未来予測という、極めて難しい課題に向かう上で、最も確度が高い推計は、世界人口の当面の増加、主に先進国における高齢化、そして日本での人口減少と少子“超”高齢化(2050年には人口の約4割が65歳以上、電車の半分がシルバーシートか?!)などであろう。これらの推計は、既に現在生活している人類の構成や「ヒトという大型哺乳類」の生物学的な特徴(例えば限界寿命や同腹仔数)が前提にあり、各国の保健衛生状況や出生率など社会的な大きな流れに基づいている。

 一方で人口の大都市への集中が、アジアを中心として世界的に進んでいる。かつては田舎に住む人間の方が都市の人間よりも多かったが、2009年にはこれが逆転し、2050年には都市人口が田舎の倍になると考えられている。現代人、特に人口増加への寄与が大きい若い世代は、便利で衛生的であり収入水準も高い都市での生活を望み、進んで田舎で生活したいとは思わないのではないか。イソップの「街のねずみと田舎のねずみ」の話は既に昔話となっていて、何らかの新たな要因が働かない限りこの傾向は今後も続くであろう。

 この様な背景の下で、これまで人類の脅威であった感染症などに代わって、精神疾患、特に認知症やうつ病が今後の人類の健康に大きな影響を及ぼすであろう病気の候補の筆頭と考えられる。

 認知症増加の最大の要因は皮肉にも人類の長寿化である。代表的な認知症であるアルツハイマー病(AD)は未だ根本的な治療法がないが、その99%以上を占める非遺伝性のADでは、多くの場合65才以降に認知の障がいが現れる。平均寿命が65才に満たなかった1940年代までの日本では、大部分の人がその前に他界していたであろう。

 うつ病は、各国の大都市での有病率が田舎と比較して約4割高いというメタ解析*の報告があり、今後も都市への人口集中が継続すれば患者数も増加し続けるであろう。但し、日本でのここ10年間のうつ病患者の急増については、従来の「うつ病」自体は増えておらず、いわゆる「新型うつ病」ほかの増加が著しいというのが、多くの精神科医に共通した意見である。うつ病については病気の定義自体も議論されており、今後、問診以外の生物学的なマーカーが診断基準に加えられることが期待される。

 人を「その人」たらしめる基盤である「記憶」が壊れていく病気、人間にとって重要であるが客観的な評価が難しい「気分」に関わる病気への対応を、これからの20年で変えていくことができるのかどうか、或いは50年先ならばどうなのか。とても難しいが極めて重要であり、同時に取り組み甲斐のある課題である。

*メタ解析:過去に独立して行われた複数の臨床研究のデータを収集・統合し、統計的方法を用いて解析すること。


出典:平成20年厚生労働省患者調査