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12.11.29 微細藻類による二酸化炭素からの有用物質合成

 今から5万年前にアフリカを起源とし誕生したといわれるホモ・サピエンス(「知恵のある人」の意)は、約9000年前の農業革命、約5000年前の都市革命を経て、約150年前の産業革命以降、人口、経済活動、エネルギー消費の急激な膨張と共に進歩を遂げ、地球上で最も繁栄を享受した生物になったといえます。しかし、科学的にも文明的・文化的にも発展してきた人類も、その一方で多くの地球環境に対する負のインパクトを与えてきたことから、繁栄の裏にある資源枯渇等の問題について今一度、地球レベルに立ち戻って考える必要があります。

 最も重要な資源である原油は、太古の地球に生息した光合成細菌・シアノバクテリア(藍藻)が今よりもはるかに二酸化炭素濃度や温度が高かった頃に二酸化炭素を固定して増殖し、その死骸が人類の誕生する遥か昔から5億年をかけて原油田などに蓄積されてできた化石資源です。悠久の時を経て生成したものであるにもかかわらず、今人類は原油を大変な勢いで消費しており、その可採年数は100年に満たないといわれています。100年後のみならず、人類が真に持続可能な状態を目指すには、枯渇することのない新たな資源・エネルギーを探索する必要があります。

 この目的に対し、私たちは科学の力により生命体の持つ奥深く多様性のある機能を利用することができるようになってきています。その一つの究極的な実例として、微細藻類による二酸化炭素からの物質生産が挙げられます。皆さんは藻類と聞いて何を想像されるでしょうか? なじみ深いものでは、金魚鉢で金魚に酸素を供給する藻(も)、味噌汁に入っているワカメ、昆布などもありますが、ここで言う微細藻類とは、時に異常繁殖により魚の生態系を乱すアオコや赤潮などの仲間で、数ミクロン~数十ミクロンサイズのものです。これら藻類は数日から数週間という極めて短期間で、多様な有用物質を生産する能力を備えています。他の植物よりも効率よく光合成を行い、二酸化炭素の固定化(細胞内への取込と還元、代謝)を行います。これにより、化学的には変換が難しい二酸化炭素を資源として利用することができます。すなわち、大気中に大量に存在する二酸化炭素を物質生産の炭素源にすることができるのです。

 現在、地球快適化インスティテュート(TKI)では、最も持続性が高い“太陽光”のエネルギーと微細藻類が有する高い二酸化炭素固定化能力を利用し、化石燃料に拠らない持続的な有用物質の生産方法の検討を行っています。上述のように、微細藻類の一つであるシアノバクテリアの死骸が今日の石油になりました。始新世ではこのシアノバクテリアの炭酸同化作用により、二酸化炭素濃度が下がり地球の温度が下がったという説があります。21世紀の私たちが、地球温暖化防止や新しい資源の獲得のため、シアノバクテリアの様な微細藻類の機能を使って、科学の力で石油に代わる有用な物質生産を目指すのも歴史のめぐり合わせでしょうか?

 私たちはこの目的達成に向け、オープンイノベーションの考え方を用いて国内外の研究者と共に研究開発を実施し、企業活動を通じて人・社会・地球の持続可能性(サステナビリティ)を追究しています。微細藻類や光合成細菌を用いて直接二酸化炭素から有用な物質生産をすることが可能になれば、有用物質の生成期間を5億年から数週間へと飛躍的に短縮することができ、これこそ真の錬“炭素”術*1)を獲得したことになります。その実現の壁はどのように存在し、それはTKIが見据えている20~50年のタイムスケールの中で克服しうるものなのか。そして、この大きなイノベーションを実現し、「知恵のある人」として人類の文明に新たな足跡を残すことはできるのか。人・社会・地球にまつわる大きな視座が求められています。

*1)錬“炭素”術: 錬金術が卑金属を原料として“金”という貴重な金属を得ることを目指したことと同様に、炭素化合物を原料として様々な有用製品を得ることを、錬“炭素“術と呼ぶ。(新しい造語)


微細藻類による二酸化炭素の資源化の流れ

出典:筑波大学、Wikipedia
以上