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13.05.31 農業生産に伴う過剰窒素*削減のための新ビジネス

 肥料三大要素の一つである窒素は、人間にとっても最も重要な元素の一つであり、生命活動を維持する上でも欠かせません。一方で、人間の活動を支えるための食料生産やエネルギー生産の結果、皮肉にもその窒素が一部の環境下で過剰に存在し、人類を取り巻く環境に変化をもたらしています。例えば、人口の増加に伴う食料需要の伸びに対応するため、大量の肥料を使った大規模穀物生産が世界中で行われています。また、世界的な食肉・酪農製品需要増加のため、家畜の数も飛躍的に増え、その結果糞尿の発生量も増えています。これら穀物生産に使用された肥料の窒素分の多くや家畜糞尿中の窒素のほとんどは、雨が降ること等により土壌から河川や海に流れ出します。これが水の富栄養化をもたらし、藻類の生育が加速することで、河川や海水中の酸素消費速度が高まるので、いわゆる酸欠水域を形成して大量の魚介類が死滅する事態を招いています。また、土壌中の窒素が酸化してできる亜酸化窒素は、ガスとして大気へと排出されますが、これは二酸化炭素の300倍もの温室効果を持つと言われています。さらに、土壌中の窒素は、アンモニアや窒素酸化物として大気へ揮散しますが、降雨等で最終的に地球表面に沈着します。これが土壌の酸性化をもたらし、森林の衰退を招いています。森林は光合成による酸素発生と二酸化炭素吸収という重要な役割を担っているので、その衰退は地球全体の環境保全を考えると深刻な問題です。このように過剰に使用された肥料中の窒素成分は、さまざまな環境問題を引き起こすので、何らかの対策が必要です。

 下図(a)に、1900年から2000年までの地球表面の窒素発生量を由来別に示しました。図中の「固定化」は、大気中窒素の微生物による窒素固定による窒素量、「地表への沈着」は、一旦大気へ揮散した窒素化合物が降雨等で地球表面に沈着する量です。図によると、肥料と糞尿由来の窒素が地表の窒素量を押し上げているのがわかります。これは、世界的な食肉及び酪農製品の消費量増加に起因するもので、2050年の予測値にも示されているようにこの傾向は今後も続くと考えられます。

 TKIでは、このように地球的な問題である過剰窒素の緩和に向けて、新たなビジネス開発に取り組んでいます。その実現のため、カリフォルニア大学へ委託して、特に家畜糞尿から蛋白質を抽出し、窒素肥料(NH3)、バイオ燃料・バイオケミカル及び家畜飼料添加物の三つを生産する新しいバイオプロセスを開発中です。このプロセスで生産された窒素肥料を使用すれば、下図(b)に示した例のように、2050年までに窒素肥料由来の窒素発生量(黄色)を大幅に削減できる可能性があります。この技術を広く世界中に普及させ、農業生産活動による環境負荷を軽減することで、過剰窒素問題の解決に貢献したいと考えています。

1.引用文献:L. Bouwman, et al., PNAS, Special Feature, 6, 6, 2011.

 *本稿で述べる“窒素”は、元素としての窒素、もしくは肥料や糞尿に含まれる窒素含有化合物や窒素酸化物などの窒素化合物を総称して表記しています。これに対して、大気中に含まれる窒素ガスは「大気中窒素」として区別して記載しています。