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14.02.07 トマトで考える未来の食のあるべき姿


tomato, mozzarella” by stu_spivack/ CC BY-SA 2.0

 衣食住足りて礼節を知る-中国の戦国時代から漢の時代まで書かれた有名な『管子(かんし)』の言葉ですが、古き時代の国のあるべき姿として衣食住の整った経済的豊かさの必要性を物語っています。では将来の『食』のあるべき姿とは一体どのようなものでしょうか?地球快適化インスティテュート(TKI)では未来の食に対する社会科学的調査をおこなっています。いまだに存在する食糧難や異常気象を除き多くの場所では量的な問題が改善されてきましたが、質的な食の豊かさへの要望は尽きることがありません。

 最もたくさん作られている野菜の一つがトマトですが、その生産量は全世界でおよそ1.5兆トンと言われています(FAOSTAT, 2010年)。サラダ、ケチャップ、トマトジュースなど幅広い方法で利用されていますが、最近はトマトをテーマにしたレストランやスイーツなども目にするようになりました。その人気のトマトも元々は南米ペルーが原産地とされていて日光が強く、乾燥し、夜の気温が低い環境で非常に小さな実をつける植物でした。それがヨーロッパ・スペインに観賞用として伝えられ、その後食用として用いられましたが当初はあまり人気がなく、16世紀の書物には「体に悪い」とさえ書かれたこともあるようです(『品種改良の世界史』鵜飼保雄、大澤良著、悠書館2010年)。


Provence Restaurants, Tomato Festival 2013 by N Wong/ CC BY-ND 2.0

 その後、調理方法、栽培方法の開発や品種改良が進み今や代表的な野菜・果物として重宝されています。食品科学や生理学の立場からはリコピンの抗酸化作用やその他の有益な栄養成分が注目を集めています。また旧東京帝国大学の池田菊苗により発見されたうま味成分(グルタミン酸)を豊富に含み味わい深さを提供していることも普及の理由と言えるかも知れません。

 トマトの品種改良は消費者のニーズを満たすだけでなく、生産者の要望をかなえる形でも進められてきました。これまでに栽培に適した品種、200を超えると言われるウィルスや細菌などの病原菌、害虫に対する抵抗性を示すもの、乾燥や温度などの環境に適合した品種などが開発されてきました。米国のスーパーマーケットでは棚持ちや輸送のしやすさ、貯蔵性、見た目などが重視され、かつての古き良きトマトのフレーバーが失われてしまったと嘆く声も聞かれ販売者のニーズが消費者のそれを凌駕してしまったと言えるかも知れません。


Natureのトマトゲノム解読の報告
Reprinted by permission from Macmillan Publishers Ltd.
Nature Vol.485, 31 May 2012 , copyright 2012

 2012年には国際的な協力のもとHeinz 1706というトマト品種のゲノム配列が解読され、その後も様々な品種のゲノム配列の解読が進められつつあり、それらの情報から品種間の遺伝子レベルの違いや多様性、進化の過程を紐解く研究が進められています。その中からいずれ消費者、生産者、販売者のニーズを満たしさらには地球環境にも配慮した真にKAITEKIなトマトが創られるかも知れません。また、その中には以前の活動紹介でご紹介した植物工場に適した品種や健康やライフスタイルを考慮したトマトが生まれるかも知れません。TKIでは進展の目まぐるしいゲノム科学・情報科学などの科学技術と社会システムの両輪から未来のあるべき食の姿を探索しています。